第10回 金彩(きんさい)(その1)

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金彩 というのは金加工とも言いますが、染め上がった生地に、金や銀などの箔、あるいは金属粉を接着加工する技術です。金彩と呼ばれるようになったのは比較的最近のことのようで以前は、 印金(いんきん) と呼ばれ、その根源は中国で、宋の時代以降、織物の生地の上に、糊、漆、ニカワなどの接着剤で文様を描き、その上に金箔を押し当てて乾燥させた後余分の金箔をふき取って文様を表現する技術があり、こうした技法が日本にも伝わり、印金として発達したのです。

 同時にこうして加工された裂地が当時輸入され名物裂として珍重されました。印金の技法は日本に入ってから特に平安時代に多くの技法が考えられ発達してきました。当時は衣装の加飾手段として使われることはなく、経典や絵画など紙や裂を使った工芸品に数多くその技術が使われており、特に素晴らしいものに、厳島神社に平清盛が奉納した有名な 平家納経 があります。現在にも伝わるあらゆる高度な金彩の技法が駆使されたもので、当時すでに相当な熟練職人が数多くいたことをうかがわせます。

 近世になってから能衣装や小袖という衣装が生まれ、その中に印金の技術を施したものが出てきました。先ほど述べた中国での技法が日本では、 摺箔(すりはく) という名で花開き、特に桃山時代の 小袖(こそで) には刺繍とこの摺箔の技術を駆使して表現されたものが多く見られます。ところが江戸時代も後半になると、友禅染の出現以降、模様染めの中での単なる補助的な加飾手段となり、江戸末期から明治の初めの頃の小袖には、まったくといって印金加工が施されていません。明治の30年代を過ぎ、京都の糊置業者が印金技術を研究することで復活し、現在の金彩につながるのです。

 金彩は友禅の段階でのまずい挿し色や、柄の中の汚れなどを隠すことができるという側面もありますが、それは決して金彩の目的ではなく、あくまで友禅染を引き立たせ、より華やかに表現する手段です。ただ気をつけないといけないのは必要以上の加飾が友禅染の品格を損ねることにもなり、色々な技法を使いながらも、要は職人さんのセンスが問われるのです。金彩の技法は大変多い上に、新しい技法も次々考えられ、また近年、色箔を作る技術が発達し、金彩でのみ表現する金彩友禅と称するものまであり、多岐に渡る表現が可能となりました。

 その結果金彩加工は単にきものの加飾手段の枠を超え、インテリア関係の商品も多く作られております。つまり他の陰に隠れた比較的単純作業の仕事に比べ付加価値も高く、これからも将来に希望の持てる職種といえます。ただいかんせん本来のきものの生産、特に本格的な金彩技術を駆使した仕事が激減しているため、このままでは高級な技が途絶えてしまう危険性があります。日本の金彩技術は他国に見られない独自のすばらしい文化でもあり、何とか知恵を使い残していかねばならないと思います。

 金彩の技法は今述べたように大変たくさんあるのですが、いくつか代表的なものをやや詳しく記してみます。

「金くくり技法」

kinkukuri.jpgこの技法は「金線描き」とか「筒描き」ともよばれ、友禅染で表現された模様、なかでも糸目糊を引いて白く残った線の部分を金線でくくってゆく技法のことで、金属粉と糊を混ぜたものを、渋紙で作られた筒に入れ、先端に太さの違う種々の筒金を付け、搾り出すようにくくっていきます。これは糸目糊置と同じ技法です。この技法を施すことで模様に立体感やメリハリが付き、最も広く使われている技法です。

 

 

「押し箔技法」

 通称「ベタ箔」とよばれる加工法で、多くの技法の基本といえます。簡単に言えば加工する部分に箔を接着する技法です。加工する部分全面に接着剤を筆で均一に塗りますが、使用する接着剤に気をつける必要があります。すぐに乾いてもいけませんし、逆にいつまでも接着力が残ってもいけません。昔はでんぷん糊だけを使っていたのですが、柔軟性に欠け、糊が乾いた後バリバリになったり、またゴキブリに食われたりもして色々と問題がありました。

 最近はエマルジョン樹脂というものをそのまま使ったり、でんぷん糊と混ぜたものを使用します。この樹脂を使うようになってから、過去の種々の問題が解決され、技法的にも広がりました。糊を塗った後、余分な量の接着剤を布やティシュペーパーで軽く抑えて取り除きます。次に、箔ばさみ(平たく言うと竹でできたピンセット)を使い、箔をシワにならないように取り上げその加工する場所に貼り付けます。

 次に箔を綿などで軽く押さえ密着します。後は自然に乾燥させ、余分な箔をブラシで取り除きます。使用する箔は本当に軽く薄いものですから、息を吹いただけでもシワになるので取り扱う時に空気の乱れを起こさないよう細心の注意が必要ですし、箔をはさむ場合も直接手で持たず、箔の一辺を必ず箔ばさみではさむように持ちます。また押し箔加工では、接着面が大きいので、生地の風合いが硬くなることがあり、そのため接着剤が完全に乾燥した後、生地を斜め方向に引っ張り、織物の結節点を緩めておくようにします。これを専門的に「菱を入れる」といいます。

 この技法により柄に金の輝きを持たせ、陰影と重厚味や豪華さを持たせることができます。近年は箔を作る技術も進歩し、多岐にわたる色彩までもが金彩で表現できるようになりました。

「摺箔技法」

surihaku.jpg摺箔は、金彩の中で最も古い歴史を持つ技法で現在でも代表的な技法のひとつです。この技法は、簡単に言うと小紋柄などの型紙を用いて加工する部分に糊を置き、その上に箔を貼り乾燥の後余分な箔を取り除くことで、型紙の柄を金、銀等で表現するものです。「型押し」ともいいます。

 

 

 

具体的には、使用する 型紙 (薄い和紙を渋で張り合わせ、その上にさらに渋を引き、むろの中で仕上げたもので、適当な厚さと硬さがあり、水にも強く伸縮性の少ないもので、それを柄どおり刀で彫り上げて作ります。小紋着尺などの型染めにも使いますが、従来三重県の伊勢で多く作られていたことから、通称 伊勢型 と呼ばれていたものが多かったのですが、最近の生産数激減により今ではほとんど新しいものは作られていないのと、写真型というものの技術が発達してそちらのほうに取って代わられているのが現状です。)をシワにならないようあらかじめ水に浸けておきます。

 

enbuta.jpg次に作業台の上にフェルトを敷き、加工する生地を置きます。そして加工する生地の部分に接着テープを貼り付け、糊を置く部分だけをナイフで切り抜きます。これは不必要な部分にのりが付かないようにする作業で、 縁蓋(えんぶた) をおくといいます。テープは幅広で半透明のコピーテープが現在使われていますが、以前は硫酸紙や、トレーシングペーパー等が使われていました。ナイフで切り抜く時大切なことは生地を絶対に切らないことで、切れ味鋭いもので軽く引きます。逆のような気がしますが、刃がなまっているとつい力が入って生地を切ってしまうのです。

次に水に浸けてあった型紙を古新聞などに挟んで水気を取り、生地の上に模様がずれないように置きます。そして接着剤をへらで型置きします。この際接着剤が縁蓋の外側にはみ出さないように注意が必要です。糊が置けたら型紙をそっとはずし、また水に浸け糊を洗っておきます。次に箔を置き、綿で軽く押さえ接着させます。乾燥の後ブラシで余分なものを取り除きます。この技法を使うことで、地の色がしっくりとした味となるとともに小紋模様などで変化をつけることができます。

以上いくつかの技法を解説しましたがもう少し重要な技がありますので、恐縮ですが来月この続編を書かせていただきます。

 金再加工や刺繍は、陰に隠れた仕事ではなく、どなたでも比較的わかりやすい表に現れた加工ですので、私が書いていることがこれからのきもの選びにいくばくかでも参考になれば幸いです。ついいつも長くなりますがお読みいただき感謝申し上げます。


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                                                  金彩


                                                                                           高橋泰三(本名 洋文) 敬白

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