第15回 刺繍(その4)

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今月もいくつかの技法の解説をすることで刺繍の工程解説を終えます。

 

4)駒使い繍 ― 金駒繍、銀駒繍等

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金糸や銀糸、或いは駒よりの糸を木で作った駒(真ん中が細い丸い棒状で両端が四角い糸巻き)に巻き取り、この糸を置き糸といって下絵の線に合わせておき、別の細い糸でとじ付けていく技法です。

 

 

 

通常金糸2本(2駒)ずつでとじますが、1本(1駒)の場合もあります。とじ糸は、置き糸の太さに合わせ1~5mmくらいの間でとじて行きます。置き糸をしっかりと下絵と生地に沿わせて繍い止め、ゆがまないようにしなければなりません。一般的には、駒使い繍は糸を渦巻状に構成して繍うのですが、平行に繍うこともあります。この技法は最もよく使われるものの一つで、金駒繍は豪華な効果を付加するのに欠かせない技法です。

 とじ糸の色を変えることで微妙な表現をすることも出来ます。金糸の話は以前にいたしましたが、低価格品に使われている金駒繍は、金色に着色したフイルムで作られたまがいの金糸をミシンで繍い止めたものです。止め方もかなり甘いので直ぐゆがんだりします。

 色々な模様を金駒繍するのは実は大変熟練が要ります。私の作品でも必ず使う技ですが、はっきりいいますが、他の追随を許さない最高の品質です。ホームページでは判りにくいでしょうが、私の作品を見てから他のものを見ればその違いが歴然とお分かりいただけると思います。

 

5)菅繍(すがぬい)

kinkan.jpg管繍と書く場合もあるのですが、生地の緯糸(よこいと)に沿って生地目を拾い、糸を置きそれを細い糸で等間隔で留めてゆく技法です。普通は繍糸を生地目を一目飛ばして置いてゆく一目飛ばしというのが良く使われますが、目をすべて詰める目詰めや二目飛ばしなども良く使われます。 

 

 

金糸、銀糸のほか普通の糸も使われます。この技法は江戸時代初期から現れましたが、はっきり言って大変難しい技法のひとつです。それは生地目に沿って、置き糸が真っ直ぐになるようにとじ糸をよほど細かい間隔とそれなりの力加減で繍って行かないと、すぐに置き糸がよれてしまうので、大変手間がかかるのです。

 また目を途中から間違えて繍ったりすると全部繍い直さなければなりません。この技法を使うと下から生地目が見えることで陰影をつけることが出来、刺繍での表現のヴァリエーションが飛躍的に増えるのです。私は好んでよくこの技法を使いますが、はっきり言って高価な技法ですので、他の作品にはほとんど使われておりません。私の作品で使われる金菅繍はプロの職人の手本となるような水準で、誰も真似が出来ません。これも是非一度鑑賞して頂きたいと思います。

 以上大体この5つの技法が最もよく使われるのですが、その他に組み紐繍、竹屋町繍、芥子繍、匹田繍、鎖繍等を表現を考えながら使い分けてゆきます。また何繍と言えないような創作的な繍い方など、刺繍の技法は数え切れないほどあると言って過言ではありません。

 そうした技法を駆使し絵を描くように繍い上げていくには本当に長い修練が必要なのです。刺繍加工が終わると、裏から薄く糊を引いて裏の糸を定着させたり、裏に廻った余分な金糸を切りそろえたりしておきます。台から外し生地の間に薄紙をはさんで巻き、次の加工に移る事になります。

 ところで最近、加工単価の低減のため京刺繍の仕事は激減しているのが現実です。巷にあふれかえっているのは中国の粗悪品ばかりという状況で誠に情けないのですが、仕事のこともよくわからない流通業者にかかるとなんでもありで、まさに悪化が良貨を駆逐しているのです。

 私一人、孤軍奮闘で高品質のものを追い求めているといっても嘘ではありません。中国をルーツとする京刺繍の文化を受け継ぐ職人が激減しているのは他の加工段階と同じです。本当に心配な事態です。ただ多くの小売屋や販売業者にはその危機感はほとんどなく、生産者に思いやりや優しさのかけらもない利益第一主義の輩ばかりが大きな顔をしているのです。

 こうしたことで結局消費者が一番損をしているというのが本当だと思います。これからも苦しい状況が続きますが何とか伝統の灯を消さないよう、心ある人たちと手を取り合って、本物のこだわりの仕事が続けていけるよう頑張ってまいる所存です。色々ご意見お聞かせいただければ幸甚です。

 来月最期の方の工程をかいつまんで解説し、きものの製作工程の話をいったん終結させたいと思っております。寒い日が続きます。インフルエンザも猛威を振るっております。健康にはくれぐれもご留意下さい。     

高橋泰三(本名 洋文) 敬白 

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