第8回 水洗(水元)  

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先月黒引染のことをだいぶ詳しく書かしていただきましたが、ちょっと文章だけではご理解いただくのは難しかったかもしれません。ただこのことは小売屋さんでも正確にご存知の方は、ほとんどありません。もし今度どこかのお店に行かれて黒留袖の染色方法をお聞きになった時、まともに答えられたら、その方は相当勉強されておられるし、信頼に足る人だと思います。それは余談としても業者でさえ、きものの製造工程を良く知らないというのはいかがなものでしょうか。この私のコラムをぜひとも読んでもらいたいものですね。

 さて 地染め が終わりますと、次に引き染めの表面についた余分な染料と共に糊を落とす作業に入ります。いわゆる水洗作業のことですが、業界用語では 水元(みずもと) と言います。ただゴム糸目と真糊では若干作業が違いますので、ここでちょっと整理しておきます。いままでのコラムをお読み頂ければだいたいお分かりいただけると思いますが、 ゴム糸目糊 の場合は、大雑把に言うと 挿友禅が地染めの後になりますので、伏せ糊は地染めのあとで、大体引染屋で落とします。ただゴム糸目は水では落とせませんので、これから書く水洗屋に依頼します。 真糊の場合は地染めのほうが後になりますので、水元で糸目糊も一緒に落としてしまいます。

昔はこの水洗という作業は川で行われていたようです。京都では堀川という川が良く使われていました。私が子供の頃は、堀川通沿いに多くの水洗業者があり、洗った後の生地を屋上で干していたものです。今ではそんなところはただの1軒もありません。

 水洗で生じる染料の廃液やカス、或いは糊などは大変水を汚しますので、現在禁止されています。それでどうするかというと、屋内に川を作り、井戸水をくみ上げて流します。汚れた水は当然処理を施して下水に流すということで、当然それなりの施設が必要です。ですから今そうした施設を持っているところも少なく、もしこの作業場がなくなるようなことがあれば、京友禅はそこで止まってしまい、完成品になりません。

 高級品であれ価格訴求品であれ必ずこの工程はくぐっていきますから、ある意味全工程の中で最も大事な作業場でもあります。ところが近年生産量が急減し、この仕事を維持する最低ロットがありません。井戸水を使いますから、水道の水より冬でも暖かいとは言うものの、一日中洗い場に長いゴム靴を履き、立ちっぱなしの仕事はただでさえきつい仕事で、若物が嫌がり、今でも50歳を過ぎた人たちでほとんど仕事をしているような現状なのに、そこへ来て仕事量が減りとても若い子を育てていくのが難しい状況です。

 本当にあらゆる段階で、存亡の危機があり、特にこの水洗は心配です。この間も見に行ってきたら、ある程度仕事が集まってからしか仕事をしませんので、その日は水が流れていないような状況でした。こうした作業場を維持していくのは、これから業界全体で守っていくような姿勢が必要なのでしょうが、一向にそうした声が出ないのは残念です。

 具体的にはブラシを使い洗い流すと共に、通称 お玉 というスプーンの様なもので、糸目糊をていねいにこそぎ落としていきます。あまり強くすると生地を傷めますが、ある程度強くしないと細かな糸目を落とせません。見ていると簡単そうですが力の入れ具合など、熟練を要します。出来上がると当然乾燥させるのですが、今では屋外で乾燥する事が出来ませんので、高い天井の部屋に吊り下げ、乾燥機で作業をしています。昔はこうした作業を一日中夜まで続けていたものですが、今は朝のうちにしてしまえば、後もう仕事がないというのが現実です。

 ゴム糸目の場合は パークレーン溶剤 と言う物を使います。こちらのほうは自動的にその溶剤をくぐっていく箱のような機械があり、作業的には楽です。これも昔は トルクレン という溶剤を直接人力でつけて落としていたのですが、毒性が強く、人体に悪い影響があり大変でした。いくつかの工程には機械が使われ改善されているものも有りますが、どちらにしろ人の力無くしては何もできません。

 6月はワールドカップ特需どころか、天候不順も重なり、市況は一段と冷え込んでいます。そのせいもあってか、生産量はこのコラムを書き始めた頃より、また一段と減っております。京都でタクシーに乗られたら、如何にきもの業界にかつて携わっていた人が多いかに気づかれるかもしれません。どんどん職人さんが辞めて言っているのです。本当に由々しき事態です。

 きものを着たい人は多くても、現実は販売額も減る一方の変な現象は、その原因の多くは消費者ニーズに合った物を作れていないことにあるでしょうし、またそうした情報が生産者に流れない流通側の責任もあります。きものを愛するものの一人として何とかこの状況を克服するため、これからも粉骨砕身努力をしてまいります。今回もやや愚痴っぽくなり申し訳ございませんでした。早く明るいニュースを書けるようにと願う今日この頃です。

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高橋泰三(本名 洋文) 敬白

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