最終回 補正(しみ抜き等)、上げ絵羽

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前回の刺繍までの工程が終わりますと、特殊なものを除いてほぼ完成ということになります。

 ここへ来るまでに多くの職人さんの労苦と時間を経て(物によっては1年以上もの歳月を要しますが)出来上がった作品を見るとき制作者としては非常な喜びを覚えるのですが、まだ最後にすることがあります。長い工程を経ると時々どうしても人がやることですからある程度やむを得ないのですが、しみがついたり汚れたり、或いは長い時間刺繍で台に張っている間に日に焼けたりで、これを綺麗にしてからでないと販売にはかけられません。

 これを直してくれるのが 補正屋(通称 しみ抜き屋) さんです。実はこの仕事は誠に重要で、せっかく最後まで来てこの人たちの力がなかったら、製品になりませんし、また製品が売れてからも、その製品が古いもので汚れていたりしている物も必ず彼らの技を必要とします。

 最近は市中に色々な化学薬品を使った製品が出回っていますので、そのしみがどんな薬品を使えば落ちるのかある程度化学の知識も要ります。ですから職場はベンジンを初めとした多くの薬品を使いますので、火気厳禁です。水や薬品を吹き付けたり筆で塗ったり、こすったりし、それがまたかえってしみにならないよう散らしたりと、技法のバリエーションも多く、そう直ぐに習得できる技でもありません。

 上手なところとそうでないところの差もかなりあります。特に難しいのは日に焼けた商品の色合わせで、これは相当な熟練が要ります。一々ここでその技法を解説するとまたきりがありませんが、ただ言えるのはこの職種は京都に限って言うと、近年かなり仕事量は他の職種に比べ多いのです。

 なぜかといいますと、昔は製作中の過程でのしみ抜きが大半でしたが、最近の減産傾向でその部分は相当減りましたが、代わりに売れ残っていた商品が売れた後の汚れ落としが急増していることと、箪笥に眠っていたきものを着るために直してほしいというリサイクル需要がかなり増えています。

 また地方に必ずあったしみ抜き屋さんが激減していますので、必ず京都に仕事の依頼が来ます。それやこれやで、中には株式会社として組織的にかなりの量を扱い、しみ抜きだけで無く紋入れから仕立までも取り扱う総合的な補正業としてかなりの業績を上げているところもあるのです。ですからここにはかなり若い職人さんも居ります。やはり食えるということが職人さんを育てる必須条件であるということでしょう。

 次に最後の工程として、 絵羽物 (留袖、訪問着、振袖など)は最初の頃に解説しました絵羽屋さんで 上げ絵羽 (製品の形に仮縫いする)をしてもらい製品として初めて市場に出るのです。

 こうして販売にかけられ、消費者の目に触れることになります。ただきものを実際にお召しになるまでは、この後、 解きのし 紋入れ 仕立て などの工程が必要となり、場合によってまたしみ抜き屋を通ることにもなります。如何に一つのきものが消費者の手に渡るまで、多くの人の力が必要かということをご理解いただければ幸甚です。

 16回にわたり手描友禅のきものの製作工程を解説してまいりましたが、ちょっと専門的になりすぎたきらいも有り、なかなかご理解して頂くのは難しいと思いますが、 もしご興味ある方には実地にその仕事振りをお見せすることは、やぶさかではありませんのでプロ、アマ問わず遠慮なくお申し付け下さい。

 特に近年問題なのは、プロであるべき流通業者にこうした知識が無いことで、私がこの連載を始めたのは、是非業者の方に読んで頂き、物作りの大変さをご理解頂きたいと思ったのが大きな動機のひとつでもあります。

 350年以上の歴史を誇るこの大事な文化もこの先の10年ほどでその業の伝承が途絶えてしまう危機感をひしひしと感じるこのごろですが、業界あげてなんとか護っていけるよう、私もこれからも微力ながら努力してまいる所存です。長い間お読み頂いた方には心より感謝申し上げます。

 このコラムから得た知識でこれからきものを見ていただければ、もっと色々と愛着が湧くのではないかと祈念しております。来月からは、これも大変長い歴史を誇る 京鹿の子絞り についてまた連載で、解説させて頂きますので、引き続きお読み頂きますよう心よりお願い申し上げます。 

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