その4 きものの種類による紋の付け方

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今連載している紋についての話は「美しいキモノ」210号の付録と、日本紋章大図鑑 ( 百年社発行 ) を基に書いておりますが、少しでも皆さんのキモノに対する疑問が解決できればと思っているしだいです。

多くの参考本は出版されていても手にとって本当に勉強している人も少なく、いつも言うように肝心の呉服店でも、うろ覚えの知識で消費者に接するために、この紋章の文化も壊れつつあることは実に残念なことです。

欧米の貴族社会以外に家紋というものを持ち合わせている国はほとんどありませんし、これは日本の大事な伝統文化であることはまぎれも無い事実で、長く次の世にも伝えて言って欲しいものだと願わずにはいられません。婚礼に紋の入っていない色無地や紬を平気で着ていったりするような今の風潮は、実に困ったことで、服飾のTPOをきちんとふまえておしゃれを楽しむのは当たり前のことなのです。そうした知識を持ち合わせないキモノ初心者に。正しい知識をお教えするのは業界人としても当然のことながら、悲しいことに知識なき人間がキモノを売っている現実はいかんとも仕方なく、それぞれに襟を正して再勉強して欲しいものです。話がちょっと横道にそれましたが、今月は具体的にキモノの種類別にどのように紋をつけるのかという話をさせてもらいます。

紋の数と格

 今までお話してきたように家紋というのは本来格式を表すものなので、一般には小紋などのしゃれ着には付けません。

家紋を付けるとそのきものの格は上がりますから、たとえば付下げでも、紋を入れるとちょっとしたフォーマルの席にも着ていけるわけですが、帯合わせもそれに応じての配慮も必要です。別に肩苦しい事を言うわけではなく、

そうした正しい知識を持ち合わせて時と場所を考えてきものを楽しんでいただきたいと思うわけです。

紋の数は一つか三つか五つに決まっております。紋の数が多いほうが格は高く、五つ紋は第一礼装だけに付けますし、必ず染め抜きの日向紋です。

結局紋の数でそのきものの格が決まりますので、一つ紋の訪問着よりは三つ紋の色無地のほうが格が高いということになります。ただ刺繍紋に関しては数と格の上下はそう関係がありません。

紋を入れる位置もその数によって決まっています。

一つ紋は背のみ。三つ紋は背と両袖の外側、五つ紋は背と両袖、そして両胸に入れます。寸法などは略図の通りです。
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それでは次に具体的にそれぞれのきものについて記してみます。

振袖の紋

 振袖は元来未婚女性の第一礼装ですので以前は必ず紋をつけたものでしたが。現代の振袖は柄付けも多く、紋を入れるべきところにほとんど柄がついていることが多く紋を付けなくなりました。それでも可能ならやはりお付けになるほうがそれだけ格も高くなりますし、私の作品には、背に豪華な刺繍紋をお付けするようにしております。

黒留袖の紋

 黒留袖は既婚女性の第一礼装です。必ず正式の家紋 ( 或いは女紋 ) の染め抜き

日向紋を五つ付け、白の比翼仕立て(白の下着を重ねていたものを簡略化した仕立て)とします。以前にも申し上げましたが、嫁ぎ先の紋、実家の紋、家紋か女紋かなどは地方或いはその家の考え方などで違いますので、よくご相談ください。

黒喪服の紋

現代の正式な喪服は黒無地の五つ紋付で、これも第一礼装ですので染め抜き日向紋を付けます。不祝儀だからといって陰紋を付ける人がいますが、間違いです。

色留袖の紋

色留袖は第二礼装と一般には言われますが、染め抜き日向の五つ紋を付けると黒留袖と同格となります。普通は三つ紋を付けますが、染め抜き日向紋を付けると重みのある準礼装として、披露宴、パーティーなどの活用できます。

ただ柄や、加工によっては中陰紋や、縫い紋、加賀紋などをつけやや洒落気のあるきものとしてもお使いいただけます。

訪問着、付下げの紋

 社交の場で最も活用の幅が広いのが訪問着です。格のある古典柄なら染め抜き日向一つ紋をつけ、準礼装として披露宴でもお召しいただけ重宝します。

豪華なものなら三つ紋でも良いと思います。軽い感じのものなら。中陰紋、陰紋、縫い紋でも良いでしょう。加賀紋でおしゃれするのも楽しいものです。

最近の付け下げは仕立てあがると訪問着とほとんど同じですので、そのきものに合わせて判断されればいいと思いますので、お買いになったところでご相談ください。

色無地、江戸小紋の紋

 色無地は柄が無いので紋が大きな意味を持ちます。色々な紋を付ける事が出来ますが、その紋による格や印象の違いがはっきり表れます。

染め抜きの三つ紋なら準礼装となり、一つ紋なら略礼装となります。

現代では一般的に一つ紋とすることが多いようです。一つ紋の色無地はお茶会、パーティー、式典、学校行事、色と地紋によっては法事にと非常に幅広くお使いいただけますし、帯しだいでさまざまな着こなしが出来ますので、是非一枚はお持ちいただけたらと思います。日向紋だけでなく中陰、陰紋などで控えめな印象にすることもありますし、縫い紋も好まれます。その場合金糸でパーティー向き、銀糸で略喪服、或いは共色濃淡で気軽な感覚にするなど多様な表現が可能です。

また友禅紋などを付け趣味の装いとされるのも面白いと思います。

 江戸小紋は元来武士の裃に使われていたものですから小紋といっても格があり、柄によっては紋を付けられます。鮫、行儀、通しのいわゆる江戸小紋三役を初め、細かくて格の高い柄には一つ紋を付け略礼装としてお召しいただけます。紋の種類は問われませんが、派手な色紋は避けたほうがいいでしょう。

また柄の大きいものやしゃれ味の強いものには紋を付けることはいたしません。

紬の紋

 本来紬はしゃれ着、普段着ですので紋を付けることはほとんどありませんが、紬地に染加工をしたものや、絵羽物が有ったりで、最近色々とその幅が広がり、物によって刺繍のしゃれ紋を付けたりするのも楽しいものです。無地のつむぎに縫いの一つ紋を付ければ、軽い茶会や、遠い回忌の法事などにもお使いになってもいいかと思います。ただ金糸や銀糸は使いません。

ただ絣柄の先染め紬などには紋は付けません。本来その素朴な味わいやしゃれ味が魅力ですので趣味のきものとして気楽に楽しまれることをお勧めします。

羽織、コートの紋

 かつて黒の紋付羽織はミセスの装いに欠かせないもので、一つ紋或いは三つ紋の羽織は、紋無しの着物の上に重ねて、慶弔両用の略礼装とすることが出来るので重宝されました。そのほか色無地の羽織には染め抜きまたは刺繍で一つ紋を付けられます。覗き紋や加賀紋などを付けられるのもおしゃれです .

加賀紋は格とは関係が無いので三つ紋を入れるときもあります。

コートも普通は付けませんが凝った絵羽物などには縫い紋や加賀紋の一つ紋をお付けになるのもおもしろいでしょう。

男物の紋

 男性の第一礼装は黒の五つ紋付の長着に黒の五つ紋付の羽織を重ね、袴を付けます。紋は正式な家紋の染め抜き日向紋です。色紋付でも同じです。

無地のお召しや紬のきものや羽織に縫い紋を一つか三つ付ければ略礼装となりますが、地色の濃淡色が無難です。おしゃれ着として気軽に使いたい場合は紋は付けませんし、女性のような飾り紋なども使いません。

紬は本来しゃれ着ですので、婚礼にお召しになるのは避けられたほうがいいと思います。ただお召しは格上の織物ですので問題ありません。

以上ざっときものの種類別に紋の付け方をお話してまいりましたが、お分かりにならないこと、疑問の個とあればご遠慮なくお尋ねください。

来月はそのほかの補足的解説をさせていただきます。


高橋泰三 拝

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