文化の維持継承にはお金がかかります

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最近、例の大阪市長の文楽協会への攻撃的な発言で色々かまびすしいことです。

彼の個人的な生い立ちからくる無知が根底にあるとはいえ、私にはとても承服しがたい言動にあきれ返っております。

ただその尻馬に乗って文化行政全体に口を挟んでくるものがいて、これもまた嘆かわしい現実です。

文楽は単に大阪という一都市で生まれた郷土文化というモノでは無いと思います。

見に行かれればわかりますが、その舞台を作り上げるのにどれほどの人が、汗水流して刻苦勉励して来られたかと思うと、
その歴史的価値も含め、そんじょそこらの芸能とは比べものにならない質の高いまさに文化であると言えます。

大阪市長に言わせるとただの人形劇にしか見えないそうですが、まあ教養の無いことを棚井上げた、恥ずかしい発言で、おまけに能なども見る人は変質者呼ばわりです。

まあ彼の人間的資質はどうでもいいのですが、こうした秀逸な伝統文化を日本の文化的な財産として、これからも長く伝えていくのは、今現世にある我々日本人の義務でもあると思います。

文楽は能楽、歌舞伎と共にユネスコの無形文化遺産として登録されていますし、世界がその存在価値を認めているものです。

その歴史成り立ちはお調べいただければ良いと思いますので、あえてここでは触れませんが、
私の稽古をしている清元という浄瑠璃はそのルーツが京都の一中節にありますが、この初代都太夫一中は、義太夫節の創始者、初代竹本義太夫と同門ですので、清元も義太夫と縁があるのは間違いないのです。

その義太夫節と、人形劇が融合して出来上がった人形浄瑠璃は、太夫(義太夫の世界では大夫と書きますが)、三味線、人形遣いの三業でなりたつ独特の芸能です。

近松門左衛門という戯作者の存在も忘れてはなりませんが、かつては歌舞伎よりもはるかに人気を博した芸能で、歌舞伎も創生期のころは、丸本モノと言いますが、人形浄瑠璃を人間で演じたものが主でした。

つまり歌舞伎もこの人形浄瑠璃なくしては成り立たなかった芸能と言えます。

その三業の人たちが血のにじむようなお稽古を重ね、人間の情を語り、演じるさまを、何も感じないという感性には私が理解ができません。

この芸能は歌舞伎が隆盛することで一時期衰退し、紆余曲折の末、今の文楽協会が成立し国立文楽劇場御出来上がって、かつての文楽を演じていた朝日座が閉じられました。

つまり国の、行政の援助のもとで生きかえり、今に伝わるものを、貰うのが当たり前だという特権意識が許せないなどという発言には驚愕いたします。

この芸能はみんなで護っていくべき価値があるのですから、行政が補助をするのは極めて自然だろうと思います。

歌舞伎のように松竹という興行主がいないので(かつては文楽も松竹がその興行に関わっていたのですが)、確かに地元の大阪での興行成績が芳しくない(東京では完売ですが)というのは問題ではあっても、それだからこそ大阪市がその啓蒙や、普及に力を貸すのは私は当然だと思います。

尻馬に乗って、文楽に金を出す、文化に行政が金を出す必要などないというような書き込みをするものがいますが、文化というモノの価値そのものを全く認識していない愚かな行為です。

欧州では長い歴史で培われてきた自国文化を本当に大切に考え、国が補助をするどころか、オペラ、オーケストラ員など国家公務員ですし、マイセンなどの職人さんも地方公務員の扱いだと聞いています。

それほど自国の文化を誇りに思い、長く後世に伝えていこうとしています。

そしてその文化は経済的にも大きなメリットを生み出しているのも周知の事実です。

日本では確かに文楽がメジャーな芸能とは言えませんし、経済的には厳しいものがあるのですから、もし放っておけば衰退の一途であるという恐れは確かにあるでしょう。

文楽協会はその啓蒙活動に何もしていないという大阪市長の発言は全く当を得ていませんが、今の時代にその文言の難しさなどもあって、歌舞伎のようにはいかないかもしれませんが、日本の国風文化が生み出した傑作芸能としての価値を認められているのですし、地元だけでなく国も一段とその補助育成に力を貸すべきであると思います。

ある意味今回の騒動は、国家的な財産であるべき文化をいかにして守っていくのかということを問い直す良い機会だったかもしれません。

振り返ってキモノ業界は、高級な技の後継者難で、高齢化は進むばかりとなり、あと10年以内に多くの技が消滅していく恐れがあります。

しかしこれと言って有効な対策が無いまま年月ばかりが過ぎ去っています。

結局こうした後継者対策にはお金が必要で、その人たちを養っていかねばなりません。

また教えていくのはそれなりの材料も必要ですが、結局販売があまりにも落ちてしまい、モノづくりが激減し、教えていこうにも仕事が無いのです。

生地の切れ端で練習しているだけでは、いつまで立っても上達しませんし、生産数の右上がり的回復が無ければ、ほとんどの生産がインクジェット、機械染めに変わられるでしょうし、特に高級フォーマル品は姿を消すことでしょう。

私自身も大変苦労をしてモノづくりを続けていはいますが、結局は売れなければ作れないというのは当然です。

他の伝統産業にも同じことが言えますが、モノが売れないと作れません。

かつては職人を育てるための圧倒的なパトロンが数多く存在し、そのおかげで秀逸な技が獲得でき、後世に残る素晴らしい美術工芸品を生み出してきました。

今はそういう存在が希薄で、しかも行政も文化に対して今一無頓着であり、その予算を減らそうなどと言う暴挙に出ています。

その歴史的、地政学的理由から、まさにガラパゴス的進化をした日本文化はその完成度からしても欧州をはるかにしのぐものがあり、それはまさに日本の誇りであり、アイデンティティそのものであるということを、再度日本人は考えなおして欲しいのです。

政官財の大物が、特にそのことへの意識改革をしていただかないと、本当にそのアイデンティティが喪失してしまい、それは世界の損失でもあるのです。

私は多くの文化を守る唯一つの方策は buy Japanese by Japanese だと思います。

そのためにも教育は大きな要です。

大阪が京都や奈良以上に古い歴史を持つ街であるということを、大阪人が認識していないような、地域の歴史教育の欠如などが今回のような問題を引き起こすのですし、文化を正しく教えることが、その文化を守る必要十分条件です。

まあそれにしても、心ある人達の感情を逆なでする言動をする者の多さに日本の未来を憂います。

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大正生まれの祖母の方針で、
これからの国際社会、
日本の古典芸能と西洋芸能の両方が出来ないと恥ずかしいと育てられました。
家業や仕事とは全く関係ありませんが、
人生の楽しみとしてありがたいことだったと思っています。

僕は観世とピアノ、妹は未生流とクラシックバレエを気に入って幼いころより続けていました。
でも多分お能でいうと、興業としてだけでは成り立たない、
お月謝があってこそ成り立つもののようにも思います。

歌舞伎は、京都の場合素人歌舞伎もありますが、
一般的な習い事ではないようにおもいます。
でも興業としては、スターさんもいて成り立っていそうです。
だって、特に興味がなくても、顔見世には年中行事として行きますものね。

文楽はその点どうなのでしょかね?
教養がなくって、見たことがないのですけれども、
三浦しおんさんの小説が良かったので、一度見てみたくはなりました。

東京では、文楽は人気なんですね~~~
お勉強になります。

京都でも、一番人気のある孝夫が体調を崩して休演なのは残念だから、
今年は、顔見世より文楽の方が良いのかも。

ご指摘の通り、多くの芸能は、興行だけでは食べられる人はわずかで、お稽古をする人がいなければ成立しないでしょう。

歌舞伎でも、多くの人は御存知ありませんが、国立劇場の隣にある養成場で、国の補助金で育ててきた人達が底辺を支えています。
橋下は教養が無いからそういうことを知りませんが、まるで松竹が歌舞伎を支えているかのごとき発言に呆れております。
悪く言えば今の松竹はそのいいとこどりをしているだけで、社長は歌舞伎を知らない、収益だけしか頭にないただのサラリーマン社長です。

京都の素人歌舞伎はとうの昔に無くなりましたが、私の父は坂東流の名取りで、歌舞伎キチガイでした。当時の他の人もみんな日本の伝統芸能を何某かお稽古していました。ところがだんだん京都の財界人も無芸大食で、そうした文化的な無教養極まりない連中が増えてきて、維持できなくなってしまったのです。

日本人でありながらそうした古典を知ら無い、情けないほど教養のかけらもない連中が大きな顔をしているこの国に未来があるか心配です。貴兄は大変いい教育を受けられたこそ、日本という国の素晴らしさをよく認識されているのだろうと思います。

でもこれからはそうした人はほとんどいなくなり、お稽古をする人もますます減り、邦楽のプロの演奏家が食べられなくなり、その技の伝承が極めて難しくなるのです。

文楽のことは良くご存知ないとしたらぜひ鑑賞してみてください。歌舞伎ファンが追っかけをするのと同じで、大夫や人形遣いの追っかけをする人も多いのです。能でも特定の能役者の舞を観に行きたくて、追っかける人は多いのです。ただ今はほとんど女性です。
そしてそういう人は、謡曲や仕舞をお稽古しているから観に行くのです。

稽古をする人、その芸能が分からない人は観に行くわけもありませんから、伝統芸能のお稽古をする人が減ることはすなわち、消滅への道を歩むことになるのです。

その最先端を行っているのが実はキモノ業界でもあるわけですがね。

ぜひ色々な芸能を鑑賞して教養を積んでください。そうすることで世の中を見る目が変わってくるのです。

良いお言葉、ありがとうございます。

〉ぜひ色々な芸能を鑑賞して教養を積んでください。
そうすることで世の中を見る目が変わってくるのです。

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