価値観の変換点

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大塚家具の騒動は、親子喧嘩、経営理念の違いなどという風に報じられ、面白おかしく取り上げられていましたが、私はまったく違う観点から見ていました。

会長がされてきた経営は、その時代に適合していたのだろうと思います。
戦後の高度経済成長で家がどんどん建っていく過程で、家具に対する概念が今の若い人たちとちがって、耐久消費財として、良いものを買っておいたほうが得だと思うような旧世代の価値観のもとに急成長してきたのです。
しかし今ニトリに代表されるように、家具はその年代や環境によって次々捨てて買い変えていくのだから、高価なものでなくても良いというなかでは、娘さんの考える方向が主流だろうと思います。
ただ投票の結果は6対4ということで、まあ会長が筆頭株主でたくさん持っているのは別にしても、この比率は微妙で、まだまだ旧世代の価値観を持つ人も少ないことを表しているような気がします。
だから一番いいのは、両方のカラーを持つ店を作ることでしょう。
高級家具の基幹店とカジュアルな比較的安価なものを展開する2つの価値観を共有できる経営ではないかと思います。
それを総会で勝ったからといって、低価格路線に一挙にシフトすると、この会社のアイデンティティが喪失していくのではないかと危惧します。

じつは家具業界というのは呉服とよく似たところがあって、良いものは長持ちしますし、今ちょうど価値観の転換期にあります。
これは他の業界でも言えることでしょうが、かつての価値観に固執していくと、やはり時代から取り残されて行くかも知れませんが、
ただ、今はまだ旧世代のお元気な方もおられて、そう言う方たちは、安物買いの銭失いをよく知っていますから、買うとなれば上質な本物しかお買いになりません。
総じて比較的高価な買い物になるでしょうし、実はその需要がまだキモノ業界を支えているといっても過言ではありません。

私は時々よく思うのですが、明治以降日本は欧米の色々なものを取りこんできました。戦後も一段と欧米化して行くなかで、それは単に物質だけであって、その根底に流れる、思想、信条、文化などにはあまり目を向けていなかったのでは無いでしょうか。
欧州では先祖から伝わる家具をとても大事にしていますし、アンティーク家具は大変高価で、それをコレクションしている人もたくさんいます。
又銀食器なども家の宝として受け継いでいます。これは歴史から来ることで、非常に長い間戦争が続いた時代を経てきたことで、いざという時に家の歴史を物語るものと、換金できる価値ある物を持って逃げるというDNAが刷り込まれているのではないでしょうか。
欧州はかつて銀本位制だった歴史があるので、銀を大事に知るのだろうと思いますが、古き良きものは今でもいいのだという思想は今の若い人にも受け継がれていますし、物質欲の質がこれまた相当に違います。
欧州は今も相当な階級社会ですので、自らが持つものをその地位にふさわしいかどうかと考えるようです。ですからフランスのブランド物の消費は本国よりも日本、中国などの東アジアのほうがはるかに旺盛です。OLがローンを組んでエルメスを買うなどフランスでは全く考えられないとのことです。
かつての価値観を継続している欧州と、大量生産大量消費社会を戦後構築してきた日本とは、現在思想的には相当な隔たりがあります。
私はドイツやフランスのように、良いものは良いものとして何の疑念も無く、国が金を出しても次世代に伝えて行くという文化を羨ましく思っています。

私の銀座の店にたまに外人がふらりと入ってくることがありますが、アメリカ人は直ぐに値を聞きます。しかしフランス人などは物の値打ちからして高価なものでも決して高いと言いませんし、それが作れなくなるというと、なぜ国がそうしたものづくりを守らないのかと真剣に怒る人までいます。

日本が欧州以上に長い歴史のなかで紡がれてきた文化の質では決して欧州に負けるものでは無く、それ以上だというのは負け惜しみでなくフランス人も認めています。にもかかわらずそれが崩壊していても、護っていける道が希薄だというのは政治家の無教養から来ることとは言え、古き良きものとは何かという価値観が継承されなければ、いくら口で言っても馬耳東風となるでしょう。

私は若い頃から父の方針で、自ら出るべき宴席や会合に私を出したものですから、父と同じ世代の大正生まれの人、あるいは明治生まれの人たち、そしてその次の昭和一桁代の明治生まれの父を持つ2代目の人たち、そして私自身の世代、今は私よりも若い人たちとの種々の世代の人たちの交流を通じて、非常に多くの価値観を共有してきましたし、今でもそれを理解し伝えていけるという意味では天然記念物のような存在かもしれないと思っています。

キモノ業界は、キモノという文化が我々の世代からの核家族化で、文化としての継承が断絶した中で新たな価値観を想像しつつあるのですが、正しく継承さfれてきた家もまだ少なく無いわけで、茶道などの稽古事に造詣の深い方々もまだまだお元気な中では、過去を否定するようなやり方や、モノづくりは忌避されうまくいかないのです。両方が共存していかねばなりませんし、そのためには両方の価値観を共有できる人づくり(かなりの難問です)が急がれるのです。

若い方も伝統文化に触れることで先人の苦労、その価値が徐々に理解されることで、キモノでもやはり本物ををという流れになっていきます。

エントリーとしての買いやすいものをそれなりの販売する道、そして次により上質なものへの需要を充足されるものづくりという、ある意味当然のことに真剣に作り手が取り組むためにも、そういう道を敷く売り手がいなければならないということは口酸っぱく申し上げております。
文化を守るのはそれを需要する人ですが、そう言う人達と作り手を繋ぐ存在がこれからのキモノ業界で最も重要であるということなのです。


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