いつも言う売り手の人材育成

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過日東京日本橋のある老舗デパートであったことを知人から聞いて嘆かわしく、かつ悲しい思いを致しました。
仄聞ですから不確かですが、ざっとこんな話です。

そのデパートの上客が呉服売り場のベテランに、仲人のキモノの事で相談に見えたそうです。
その方の言われるには、両家の母親が、黒留袖はつまらないから色物にしようと話し合ったらしく、それでは仲人も黒留ではなくて何を着れば良いのかと言うことでした。

私が販売員ならそのことを聞いた時点で、両家の母親にやはり黒留を着るよう仲人として説得して欲しいとお願いするでしょうね。

結婚の披露宴の主催者の母親は、黒留袖を着るというのはいわば決まり事です。
それは変えるに値しない文化でもあります。

欧米でもフォーマルの洋装のプロトコールは、それなりの家柄ほど厳格に守られます。

聞けば400人ほどの招待体客と言うことですから、おいでになる中にはそれなりのキモノをお召しの方もあるでしょうし、キモノのこともよくご存じの方もおられるので、母親と仲人が黒留袖を着ていなかったら驚かれると同時に、もの知らずだと呆れられるでしょう。

つまり恥をかくわけですから、黒留をお召しになるのはその方達のためでもあります。

そうしたことを懇切丁寧に説明して、仲人さんにも黒留袖をお召しになるよう薦めるべきなのです。

それがどういう話になったのかは別にして、そのお客にとんでもなく価値のないぶっ高い色無地と信じられない程高額な袋帯を売りつけたそうです。

そのお客はキモノのことをよく知らないのでしょうが、本人はよほど良い物を自分で作ったんだろうと錯覚していますから、その時の着姿の写真を自慢げに友人に見せたのだそうです。

その友人は茶道のお稽古もされていてキモノのTPOもよくご存じですから、ただただ呆れ、お茶の仲間に話して、もう2度とあそこのデパートで買うのはよそうと言うことになったそうです。

東京の有名老舗デパートのベテラン販売員が、フォーマル需要で最も大切な結婚式で着るキモノのTPOを無視したものを平気で薦めるとは信じられない思いですし、こんな売り手が増えれば作り手は何を作って良いのか分からなくなります。

もう一つは色物をそんなときに着ようと思う女性があまりにもものを知らなさすぎると言う事実です。お茶などを稽古していればこんな発想は無いと思うのですが、伝統文化を知らない女性というのは今の世の中少なくないと言うことでしょう。

ものを知らないことで結果的に恥をかくと言うことで、無知、無恥時代の典型のような話でした。

きものを売るものがこうした伝統儀式、伝統文化を無視してそのルールを壊していくことで、益々きものは売れなくなっていくでしょう。

どこにでも着て行けるキモノや帯というものはありませんし、色々なシーンで似合うキモノをそれなりに楽しむのがお洒落です。

今急務なのは作り手の育成も大事ですが、正しい知識をもったセンスの良い売り手の養成です。

いったいどこで着るのか分からないようなものをとんでもない値で買わされているという現実は今でも続いており、売り手に反省もありません。

こうしたことが販売の益々の減少に結びついていることも明らかで、みんなが首を絞めているのです。

着たい人は増えているのにもかかわらず、初心者を正しく導ける売り手がいなければ、リサイクルやレンタルで済ましてしまう人は増えるばかりでしょう。

高齢の作り手はここのところ相次いで廃業していますし、各産地もこれからの物作りに物理的に不可能な事態が予想されており、個々の努力だけでは限界ですし、みんなで力を合わせて物作りの歴史を紡いでいかねばなりません。

そして何よりも売り手との意思疎通が肝心です。

お客様のために商うという心を持つまっとうな売り手と作り手との協業がこれから特に求められます。

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