泰三の付下げ

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近年、いわゆる絵羽物、つまりキモノの形をして売られるもの、すなわち、振袖、黒留袖、色留袖、訪問着が売れないと言って作り手は嘆いています。

そのうちの振袖は今や6割がインクジェットなどの機械染めですし、手描き友禅の本物の生産は減る一方です。

黒留袖や色留袖も最近はレンタル需要が急激に増えて、生産は激減です。

残る訪問着も、加工の重いものは着ていく場所が無いと言うことで軽めが好まれますが、
それだと付下げで充分と言うことで、ここのところ手描き友禅のキモノは付下げの生産が一番多いのです。

ところがそれも段々売れなくなりつつあり、作り手としてはどうすれば良いのか苦闘しています。
直近では台風や水害での惨状や消費税アップということで一時的には購買欲が下がるのは当然ですが、それで無くてもこの1年一段と需要が減り、生産も細る一方なのです。

しかしこれは私に言わせると売れないという原因が明らかに存在するからです。

泰三は高級な絵羽しか作っていないと誤解されている方が多いですが、実は結構付け下げも作ってきましたし、現実に良くお買い求め頂いております。

先日も東京から初めておいでになった方が、色々ご覧になっている内に泰三オリジナルの付下げをお求めになりましたが、私はそうやって買われる方の御希望や用途が大体想像がつく事と、これだったら買えるという価格を提示しております。

最近付下げをお求めになりたいという方々は、入学式、七五三などの儀式事や、一寸したお祝いのお呼ばれ、プライべートの会食や観劇、お茶会での着用など、割と幅広い用途を考えておられますので、文様は基本的に古典で、あっさりとしていて飽きが来ないけれどそれなりに重みも欲しいと言うことなのです。

私は色々な場所を経験していますから、そういう思いが良く分かりますので、従来から有職文様を中心としたセミフォーマル的な付下げを製作してきました。

淡彩の友禅に縫箔の加工をした物が好評ですが、中には刺繍だけの重い加工のものもありそれはそれで美しいのです。

物によりますが、ややフォーマルの柄を使うときには生地を4丈で染めて共八掛にしますので仕立て上がるとやや軽めの訪問着という事になります。

そして問題は価格ですが、私は友禅物なら大体50万円から60万位を中心に考えています。そしてそれは裏地代、仕立て代、紋入れ代、撥水加工代、そして税金込みの値段です。

つまりすべて込みで50万円から60万くらいなら自分で払えるという女性も意外に多いのです。

勿論一寸加工の重いものや軽い加工のものはそのかぎりではありませんが、少なくとも値打ちがあると言う価格に設定はしているつもりです。

ところが世の中を見渡すと、それ位の価格では本友禅の付下げはなかなか買えないようです。

専門店やチェーン店の店外催事での販売ではとんでもない掛け率で売っているものも多く、高いというと大幅な値引きをしてくるような下品な商いが横行しており、その値引きした額でもまだまだとんでもなく高く、その上に仕立て代などがかかりますし、とても私の設定する価格にはほど遠いのです。

またデパートも最近はとんでもなく高いものが多く、第一裏地代や仕立て代で儲けようという浅ましさで、本当にお客のことを考えた商いなどまるでしていません。

ただ実際は真面目な価格で売っているところの方が多いのでしょうが、それが何処にあるのか分からないのと、行っても私の作る様な物が売っていないとよく言われます。

問屋からの委託だけで商っているところには、実際私が見て良いなと思う物がすくないのは事実です。

あまりに欲をかかないで、お客の声を良く聞いて、それなりの物を仕入れる、作らせるということを地道にこつこつと続けていれば今のような状況になっていなかったでしょう。

商売人として当り前のことをするということが結局はながく続けられることになるのです。ただ最近は伝統文化1つ知らないような輩が偉そうにネット上でこれからのキモノ業界はこうだとばかりに安物のペラペラの低級品を押しつけようとしていて、暗澹たる思いでおります。

結局勉強不足なので、文化としてキモノを着ようというお客様の心が理解できないのです。
商いは運根鈍と言いますが、手っ取り早くたくさん売りたいということで店外で売ることが当り前のようになってしまった業界人の基本が抜けた考えに、作り手はふりまわされ疲弊しやがてまじめのものほど辞めていくのです。

いまほど流通側ほど人材が強烈に劣化している現実では、しばらく隠居できませんが、それも健康とお客様の声あってのことです。
でも気持ちは前向きに来年からも諦めないで頑張りたいと思います。


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